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ジェイアール西日本メンテック事件

外国人の労災と逸失利益の算定

改進社事件

東地判平4.9.24

 

T 事実の概要

@パキスタン国籍を有するAは、昭和63年11月28日、日本において就労する意図のもとに観光目的の在留資格で入国した。

AAは、製本業を営むX会社に雇用され、荷物の積み下ろし、包装、製本などの仕事に従事した。

B平成2年3月30日、Aは、工場内に設置されている安全装置のない平綴じ・中綴じ兼用の製本機を用いてパンフレットの中綴じ作業を行っていたところ、右手人さし指を挟まれ、その末節部分を切断する事故に被災した。

CAは、労災保険から休業補償給付132,972円および障害補償給付

1,644,725円の各給付を受けたほか、X会社から178,133円の支払いを受けた。後遺障害は労災保険により第11級7号該当の認定を受けている。

DAは、短期在留資格で在留できる期間が経過したあとも日本国内に留まり、その後、別の製本会社(以下、「Y社」という)で同様の作業に従事している。

 

U 訴状の内容

Aは、製本機の使用方法や具体的な危険部分の指摘などの注意を受けなかった事実を挙げ、X会社および社長に対し、それぞれ安全配慮義務違反および不法行為を理由として損害賠償を請求した。

 

V 判決の要旨

@X会社は、平綴じ・中綴じ兼用の製本機の使用方法を教え、かつ、危険性について具体的に注意を行い、さらには熟練者が作業を実践して見せるなどして安全な作業方法を教育すべきであった。しかるにX会社がそれを怠ったのは明らかであり、X会社はAに対し損害を賠償すべきである(民法415条)。

A社長は、同工場内でAら被雇用者とともに稼動し、事実上その指揮監督に当たってきた者であるから、当然に注意義務があった。それを怠ったために本件事故が発生したものと認められるから、社長はAに対し損害を賠償すべきである(民法709条)。

BAは、入管法に違反する者であるが、次の理由により、休業や後遺障害による逸失利益の請求は妨げられない。

a.製本作業という就労内容自体は何ら問題のない労働である。

b.入国も、強度の違法性を有する密入国のような場合と異なるから、公序良俗に反するとまでは言えない。


CAの逸失利益を次のように算定する。

a.AがY社を退社した日の翌日から3年間は、日本国内において就労できるものと認め、かつ、X社から受けていた実収入と同額の収入を上げ得るであろうと認める。

b.その後67歳までの39年間は、日本円に換算して1カ月当たり3万円程度の収入を上げ得るであろうと認める。

D労働能力喪失率は、諸要素を勘案し、20%とする。これを基に42年間のAの逸失利益を具体的に計算すれば、2,222,622円となる。

E(外国人であっても日本国内で事故に遭ったのだから、日本人労働者と同様の数値を用いるのが憲法14条の平等の原則に添うとの申し立てに対しては)

逸失利益は、事故に遭わなければ得られるであろう利益と、事故後に得られるであろう利益との差額である。Aの将来の収入額を見積るに当たっては、Aの将来における就労の場所、内容、その継続性などの諸要素を考慮するのであって、Aが外国人であるか否かは問題ではない。

F精神的損害を慰謝するための金額は、金250万円とするのが相当。 

 

Y ポイント/問題点

@多数の外国人が日本に滞在するようになり、外国人が当事者となる労働災害が増加してきている。それらは多くの場合、資格外就労や、オーバーステイにおいては生じたものである。そもそも、いわゆる不法就労外国人の労働災害をどこまで救済するのか? という疑問の声も聞かれないではない。

しかし、これまでの交通事故民事賠償事件に関する裁判例においては、たとえ不法就労であっても、実額での休業補償が認められている。本判決でも「強度の違法性を有する密入国のような場合と異なる」として、被告に損害賠償を認めている。

A次に問題になるのは、休業や後遺障害による逸失利益算定の基礎となる賃金収入の額について、これを日本の基準によるべきか、それとも被災外国人労働者の本国の基準によるべきか、という点である。

本判決では、Y会社を退職したあとの3年間については、日本での就労可能性を認め、AがX社から受け取っていた実収入額と同額の収入を上げ得るものと認めた。

しかし、それ以降の39年間については、Aの母国たるパキスタンの基準によって計算すべきであるとして、1カ月の収入を3万円とした。

判例の多くは、本判決と同様、被災外国人労働者の本国の基準によるべきとしている。B本判決では、被災外国人の日本における将来の就労期間を3年としている。

学説においては、日本での就労可能期間について、在留資格という形式的基準で決めるべきではなく、本人の意思、摘発の可能性、人権保護や生活再建を配慮した要保護性、社会的相当性、合法就労への転化可能性といった規範的要素を含む総合的判断に基づいて、裁判官が「創設的に」定めるべきであるとする見解や、さらには、平等原則に基づき労働者の就労可能な全期間にわたって、日本の賃金水準を基礎に算定すべきであるとする説もある。

本判決では、在留資格の有無を基本にしつつ、稼動内容や入国形態が「公序良俗に反するとまでは言えない」場合には、在留期間経過後も若干の期間(3年間)を認めている。

 

 



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