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ジェイアール西日本メンテック事件

集団的労働関係における使用者

朝日放送事件

最高小3判平7.2.28

 

T 事件の概要/事実関係

@ A、B、Cの3社は、テレビ放送会社(以下、「テレビ社」という)の放送事業の一部を請け負う会社(以下、「請負3社」という)である。

A Dは、テレビ社に派遣されたものを含め、請負3社の従業員を組織する労働組合である。

B テレビ社は毎月、番組制作に当たり、番組名、作業時間、作業場所を記載し、1カ月間の番組制作の順序を示す編成日程表を作成して請負3社に交付していた。

C 請負3社は、この日程表に基づいて番組制作連絡書を作成し、従業員の割当を決定することになっていたが、実際にはテレビ社に派遣される従業員は、ほぼ固定されていた。

D これら従業員は、編成日程表の他、テレビ社が作成交付する台本及び制作進行表による指示に従い、テレビ社から支給・貸与される機材等を使用し、同社の作業秩序に組み込まれて、同社従業員と共に番組制作業務に従事していた。

E テレビ社の従業員であるディレクターは、請負3社の派遣従業員を指揮監督し、作業時間帯の変更や予定時間を超える作業、あるいは休憩時間についても、自らの判断で請負3社の派遣従業員に指示をしていた。

F 派遣従業員の勤務状況は、本人の申告により出勤簿に記載され、請負3社はこれに基づき賃金を支払っていた。

G 請負3社は、30名ないしは160名の従業員を擁し、独自の就業規則を持ち、組合との間で賃上げ等につき団体交渉を行い、労働協約も締結している。

H D組合はテレビ社に対し、賃上げ、一時金の支給、組合員の直接雇用、休憩室設置を含む労働条件の改善等につき団体交渉を申し入れたが、テレビ社は、派遣従業員の使用者ではないとして、これを拒否した。

I そこでD組合は、大阪地方労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた(脱退工作等の支配介入も主張されている)。

J 同地労委は、派遣従業員たる組合員の就労や出退勤管理等に関しては、テレビ社の使用者性を認め、組合員の「勤務内容等テレビ社の関与する事項」についての団交拒否を禁ずるとともに、脱退工作等についても救済命令を下した。

K 中央労働委員会は、ほぼ地労委命令を支持したが、命令主文を、「番組制作業務に関する勤務の割り付けなど就労に関わる諸条件」についての団交拒否を禁ずるものに改めている。

L テレビ社は取消訴訟を起こした。

U 第一審(東京地裁)の判決


 請求を棄却。

労組法7条2号にいう「使用者」は、労働契約の一方当事者に限定すべきでなく、不当労働行為の趣旨、目的等を総合考慮して判断すべきであるから、テレビ社は「就労にかかる諸条件」に関しては、「使用者」に当たると判断した

 

V 第二審(東京高裁)の判決

テレビ社の控訴を認容し、命令を取り消し。

労組法7条にいう「使用者」とは、雇用契約上の雇い主と同一視しうる程度に労働者の労働関係上の諸利益に直接の影響力ないし支配力を及ぼしうる地位にある者を含むとしつつも、雇用契約上の雇い主が労働者の基本的労働条件を決定し、組合との間で団体交渉を行って労働協約も締結している場合には、特別の事情がない限り、雇用契約上の雇い主が「使用者」に当たるとし、本件においてはそのような特別の事情はないと判断した(テレビ社を使用者とした場合の協約の意味や争議行為の可否に関する疑問も論拠とされた)。

 

W 最高裁の判決

原判決破棄(団交拒否につき請求棄却、支配介入につき差し戻し)

「一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、労組法7条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度現実的かつ具体的支配決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の『使用者』に当たる」。

 

本件においてテレビ社は、番組編成日程表等を通じて、作業の日時、場所、内容等、 請負3社からの派遣従業員の業務の細部にわたるまで自ら決定しており、派遣従業員は、テレビ社から支給貸与される機材等を使用し、同社の作業秩序に組み込まれて、同社従業員と共に番組制作業務に従事していた。また、派遣従業員の作業は、すべてテレビ社のディレクターの指揮監督下に置かれていた

 

「これらの事実を総合すれば、テレビ社は実質的に見て、請負3社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、上記従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったというべきであるから、その限りにおいて、労働組合法7条にいう『使用者』に当たる」。

X ポイント/教訓


従来、派遣従業員の使用者たる請負業者が企業としての実態を持たない事案に関しての判示はあったが、本件の場合、請負3社が実質的に企業としての実態を備えている事案に関する判示であるところに、本判決の意義がある。

本判決は、受け入れた労働者の「基本的な労働条件」について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に「現実的かつ具体的」に支配、決定することができる地位にある者につき、「部分的使用者」とでも言うべき概念を肯定したものとして、注目に値する。



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