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規律違反事件

繁機工設備事件

旭川地判平元.12.27

 

T 事件の概要/事実関係

@ Aは、昭和51年に大学を卒業。翌年に結婚して1児をもうけたが、昭和61年8月に協議離婚をした。同年11月1日、募集広告に応じて有限会社Bに雇用された。

A B社は水道管の敷設を主たる業務とする従業員10名程度の小規模な会社である。

B 昭和62年5月頃から、Aは、同社の妻子ある男子従業員Cと親密になり、8月頃には、そのいわゆる不倫関係は、従業員のみならず、取引関係者にも噂されるようになった。

C B社の代表者は、同年10月頃、Cに対し、妻子のためにもAとの交際を断つよう忠告し、さらには翌63年1月、A、Cの両名に対し、「プライベートなことに干渉できないが…」と断った上で、両人の交際を止めるようにと忠告した。

D しかし、両人の交際が依然として続いていたので、B社の代表者は、同年4月2日、Cに対し、2カ月をメドにAが自主退職するように説諭して欲しいと話した。

E これを伝え聞いたAは、3日後の4月5日、B社の代表者に説明を求めた。代表者は、  いわゆる不倫関係は、社内の風紀に悪影響を及ぼし、ひいては従業員の士気低下につながることや、代表者の体面にも関わることを述べ、さらに「家庭を壊すのはよくないことだし、二人の交際は不倫であって、いくら仕事に支障がなくとも従業員に示しがつかず、会社を辞めて欲しい」と述べた。しかし、Aは退職の意思のないことを伝えた。

F B社の代表者は、同年4月9日、Aに対し、会社全体の風紀・秩序を乱し、企業の運営に支障を来たしたので、解雇する旨記載した解雇通知書を手渡し、同年5月31日付をもって解雇した。

G Aは、解雇を無効として、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める地位保全と賃金(基本給、住宅手当および通勤手当)の仮払いを求める仮処分を申請した。

 

U 旭川地裁の判決

一部認容

「Aが妻子あるCと男女関係を含む恋愛関係を継続することは、特段の事情のない限りその妻に対する不法行為となる上、社会的に非難される余地のある行為であるから、B社の就業規則第23条2号の『従業員が素行不良で職場の風紀・秩序を乱した場合には懲戒をなし得る』の『素行不良』に該当しうることは一応否定できない。

しかし、上記規則の『職場の風紀・秩序を乱した』とは、これが従業員の懲戒事由とされていることなどから、B社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべきであるが、AとCの交際がB社の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたと認めるに足りる疎明はない。


以上の次第で、本件解雇は、懲戒事由に該当する事実があるとはいえないから無効であり、他に主張・疎明のない本件においては、Aは依然としてB社の従業員たる地位を有するものである。」

なお、裁判所は、賃金の仮払いについては、通勤手当の仮払いの申請を却下したが、基本給と住宅手当の保全の必要性を認めて仮払いを命じ、Aの主張を一部認容した。

 

V ポイント/教訓

職場におけるいわゆる不倫が、就業規則所定の風紀紊乱に該当し、懲戒解雇が許されるかどうかについては、裁判例では議論が分かれている。

 

懲戒は企業秩序の維持を目的とするものであるから、懲戒の対象となる行為も企業秩序侵害行為でなければならない

つまり、男女間の交際などは、従業員の私生活上の行為であり、元来企業秩序とは無関係であるから、一般に懲戒の対象とはなり得ない。行為の反倫理性や反社会性それだけでは、使用者は従業員間のこの種の問題には、原則として干渉できないと解される。

 

しかし、最高裁では、「会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない」としている。

その場合、「必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするもの」ではなく、従業員の「行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」には、当該従業員を解雇できるとしている。(日本鋼管事件・最二小判昭49.3.1)

 

この判断に沿う判例として、長野電鉄仮処分申請事件の東京高裁の判決がある。この事件は、妻子ある観光バスの運転手が未成年の女子車掌と情交関係を持ち、妊娠させたために、会社は運転手を解雇した。判決は、以下のとおり

運転手の行為は「それ自体すでに会社の従業員間の風紀を紊し、職場の秩序を破ること著しきものであり……バス事業を経営する企業者としての社会的地位、名誉、信用等を傷つけるとともに多かれ少かれその業務の正常な運営を阻害し、もって会社に損害を与えたものと認められる。よって、解雇はやむを得ない措置であった。

判決は、長距離路線バスや観光バスの乗務に際して勤務の途中で運転手と車掌が同宿するという事情や、通常、運転手が年長であり、車掌が極めて若いため、運転手の影響力が絶大であるという事情、いわばバス事業における職場環境の特殊性を重視し、運転手の行為を厳しく評価した結果であろう。

 

一方、この事件の長野地裁における一審では、バス運転手の行為を会社の風紀あるいは社会の風紀を乱すものと断じながらも、「会社の信用を害したという点については、これをうかがうに足りる主張および資料がなく、その受けた損害についても……何ら具体的事実について主張もない」ので、上記バス運転手の非行は協約の解雇事由に該当せず、解雇無効の判断を示した。

 

判例は以上のとおり、解雇有効と無効の立場に二分されているが、無効を認めた裁判例では会社の挙証責任を求めている。従って、会社経営者は、懲戒解雇するに当たっては、企業運営に支障があったことを証する具体的事実を十分に揃えて臨む必要があることを銘記すべきであろう。



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