ユニコン・エンジニアリング事件
東京地判平16.6.25
T 事件の概要/事実関係
@ A副部長は特定業務の専任者として一人で業務遂行に当たっていた(いわば一匹狼的な存在)。従って上司による労務管理は行われず、A副部長自らの判断によって残業や休日出勤を行った。
A A副部長には役職手当が支給されていた。
B 会社はA副部長を解雇した。
U 訴状の内容
A副部長は「所定時間外労働、深夜労働、休日労働を行ったのだから、会社は割増賃金を支払うべきである」と割増賃金未払い分375万円の支払いを求め訴えた。
V 裁判における争点
労基法41条2号は、管理・監督者には、労働時間、休憩、および休日に関する規定が適用されないことを定めている。
その理由:管理・監督者とは、事業経営の管理者的立場にある者、あるいはこれと一体をなす者であり、労働時間などに関する規制を超えて業務に従事するという企業経営上の必要性があるからである。
■A副部長の主張:
@ 自分の担当した職務は高度な経営判断を要するものでなく、日々の定型作業が中心であったから、管理・監督者の立場にはなかった。
A 役職手当は名目上のものであり、事実、管理・監督者に対する待遇にふさわしいものではなかった。
■会社の主張:
@ 会社の給与規則には、「課長以上の役職手当の支給を受けている者には、超過勤務手当は支給されない」と明示されている。
A A副部長は在職中、上記のことを十分に認識していた。
B A副部長は業務の性質上、休日出勤が必要であると自ら判断し、それを実行した。それはまさに管理・監督者としての自覚に基づく職務の遂行であった。
W 判決の内容
a 裁判所はA副部長の@の主張を認め、A副部長の責任および権限が重要かつ広範なものであったとは言えないと判定した。
b 裁判所はまた、A副部長のAの主張も認め、役職手当は管理・監督者の待遇としては十分なものではなかったと判断した。
上記の理由から、役職手当は残業手当として支給されていたと判断できるが、実態上管理・監督者には当たらず、A副部長には役職手当を超過する分の時間外労働の割増賃金を請求する権利があると、裁判所は認定し次のような判断を示した。
c 役職手当は時間外労働の対価であるから、これを割増賃金の計算基礎(月例給)に含めてはならない。
d すでに支給された役職手当は時間外労働の対価の一部であるから、当然に、その全額は割増賃金の請求額から差し引かれる。
X ポイント/教訓
@ その名称如何を問わず、管理・監督者は、実態としてみる。
具体的には…
(ア)経営者と一体の立場で重要かつ広範な責任および権限を有する。
(イ)労務管理上の指揮権限をもつ。
(ウ)管理監督者にふさわしい待遇。
A 役職手当には、(ア)割増賃金がなくなることへの補填と、(イ)職務内容に対する手当てという、二つの性格が併存する傾向がある。
しかし、その場合、(ア)の部分、つまり定額の別手当による割増賃金の性格を帯びた部分は、時間外の割増賃金として、労基法所定の額が支払われたことを証するために、その内訳を明示する必要がある。それがない場合は、当該手当の全額が割増賃金の計算基礎に算入されることになる。
参考判例 関西ソニー販売事件 大阪地判昭63.10.26
ジオス事件 名古屋地判平11.9.28