ジェイアール西日本メンテック事件
大阪地判平16.3.12
T 事件の概要/事実関係
@ ジェイアール西日本メンテック(以下、「会社」)は、駅、車両などの清掃やホテル客室の整備などを業務とする総合メンテナンス会社である。
Aは、「会社」のパートタイマーとして、30カ月にわたり、ホテルの食器洗浄作業に従事した。
A 最初、雇用期間を1カ月と定め、2度更新した。次に雇用期間を4カ月と定め、1度更新した。さらにその後は、雇用期間を6カ月と定め、4度更新した。
B しかるに「会社」は、平成14年2月26日をもって、「雇止め=雇用の打ち切り」とした。
U 訴状の内容
@ Aは「期間満了による雇止めには正当な理由がない」として、雇止めの差し止めを訴えた。
V 裁判における争点
雇用期間の定めがある労働契約は、雇用期間の満了により契約関係は終了する。
しかし、次の場合には、必ずしもそうとは言い切れない。
@ 雇用期間の更新が反復継続され、期間の定めが形骸化してしまい、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていた場合。
A 雇用期間の更新が反復継続された結果、労働者が雇用継続の期待を抱いたとしても何ら不思議ではないという合理性が生じている場合。
このような場合、「会社」が労働契約の更新を拒否しようとするならば、解雇の場合と同様、客観的かつ合理的な理由を示すことが求められる。
当然のことながら、裁判では、本件が上記の@、Aに該当するか否かが争点となった。
W 判決の内容
まず@について。
雇用期間が比較的短期で、しかも更新ごとに労働契約書が作成されている事実から、労働契約の期間の定めが形骸化していたとは言えない。
次にAについて。
雇用期間を定めて「会社」がいわゆるパートタイマーを雇用するには、それなりの合理性がある。すなわち、業務の繁閑の差が大きいため、「繁」の時期に比較的単純な業務に限って、その労働力を補完するためにパートタイマーを雇用するのである。
これは社会通念であるから、Aは「会社」による契約更新の拒否があり得ると認識していたはずである。
また、本人の期待に反して雇止めになった従業員が存在し、その事実をAも知り得たはずである。
以上から、本件雇止めについて、解雇の場合と同様な合理的理由の有無を検討するまでもなく、本件労働契約は期間満了により終了したと判定する。
X ポイント/教訓
労働者と使用者との間において、期間を定めた労働契約を締結した場合、契約期間の満了によって当該契約は終了する。これは私法上の原則である(民法622条)。
たとえ期間の定めのある労働契約の更新をくり返したにせよ、上記の原則は貫かれる。
契約の更新は新たな契約の締結であり、そして契約を更新するか否かは、契約自由の原則に基づく労使双方の合意によるものだからである。
しかしながら、期間の定めのある労働契約の更新が反復されていると、労働者に契約更新の期待が生じてくる。労使間が円満であればなおさらのことである。
ここで注意を要するのは、判例法理では、労働者の期待に合理性がある場合、これは法的に保護されるべきだとしていることである。
では、労働者の期待に合理性があるやなしやの判断基準とは、どんなものなのだろうか?
判例に照らし合わせると、次のような場合に合理性あり(つまり雇止め困難)と判定されるようです。
@契約内容に関して。たとえば正社員並みの業務に従事したり、業務の内容が長期労働を前提としているような場合。
A更新手続きに関して。更新のつど、労働契約書がキチンと作成されていない場合。
B職場における雇止めの実態に関して。雇止めが常態化していない、または常態化していてもそれが労働者に周知されていない場合。
C使用者の言動に関して。使用者、とりわけ現場の管理者が労働者に期待を抱かせるような発言をしている場合。
教訓はすべて上記の裏返しになりますが、諸点を挙げると、次のとおり。
@契約期間を含む労働条件を労働契約書に明確に記載する。
A更新の際、必ず労働契約書を作成し、曖昧な形での自動更新をしないこと。
B長期にわたって更新を反復しないこと。
C労働者に長期雇用を期待させるような言動を厳に慎むこと。
参考判例 東芝柳町工場事件 最判昭49.7.22
カンタス航空事件 東京高判平13.6.27
丸島アクアシステム事件 大阪高判平9.12.16